こんにちは、獣医師の上野です。今回は断尾の手術についてお話ししたいと思います。
動物種:猫
年齢:2歳
体重:5.0kg
主訴:他院にて断尾を行った後、尾の先端が化膿している。
断尾を行うケースのほとんどは外傷です。まれに腫瘍が原因になることもあります。
損傷が軽微な場合は断尾を行わず抗生剤や抗炎症剤により内科的に治療を行うことも可能です。
しかし、尾は先端に近づくにつれ血流が弱くなり修復しづらく、尾の皮膚はあまり余裕がない(伸びない)ため、皮膚や筋肉、骨組織の損傷が著しい場合に断尾を選択します。
レントゲン検査にて骨の損傷の有無を確認し、切断する位置の見極めをします。
今回はすでに断尾を行った後の修復不全であったため、レントゲン検査は省略し、飼い主様に了承を得て
手術を行いました。
尾の切断部位は損傷または露出している部位の骨より体側の関節を切断する目安に定めます。
尾には太い血管が主に腹側に走行しています。
出血を避けるため、切断前にあらかじめ血管の結紮(穿刺結紮)を行なっておきます。
手術の注意事項
前述したように尾の皮膚には余裕がないため、皮膚切開の際には注意します。
断端が隠れるように切開するのはもちろんですが、尾の動きに合わせて縫合部に張力がかからないよう皮膚切開には余裕を持たせます。
私は以下の点に気をつけて切開を行うようにしています。
切断する部位よりもやや尾側(体から遠い側)に皮膚切開ラインを定める
皮膚を尾の根元側に引っ張るようにして皮膚を張らせて切開を行う
縫合ラインが断端直上ならないよう背側の皮膚を長めに残す
残す尾が長ければ長いほど断端の修復はデリケートになっていきますので、皮膚縫合には細心の注意を払います。

手術前の写真です。皮膚が壊死・脱落し、皮下組織が露出してしまっています。

手術後の写真です。縫合部が断端よりもやや腹側になるよう調整しました。
断尾の手術で最も多いのが舐めて傷が開いてしまうことですので、エリザベスカラーが必須です。
犬の場合ですと尾を振ることでぶつけてしまうケースもありますので場合により生活環境にも気をつけます。
体調に問題がなければ当日の退院も可能です。抗生剤と抗炎症薬にて術後ケアを行います。
抜糸は10~14日後で行いますが、尾の動きが激しい子はもう少し間を開けることもあります。
本症例の子は順調に回復し、術後10日で抜糸が行えました。
断尾を行うことは比較的まれで状況は様々ですが、尾の状態が悪い時は選択する必要があるかもしれません。
気になることがありましたらお気軽にご相談ください。