若齢犬における肝酵素の上昇

こんにちは、獣医師の松本です。

今回は、若齢で肝酵素の上昇が認められたわんちゃんのお話をさせていただきます。

血液検査で測定する肝酵素はALP、ALT、AST、GGTといった4種類が挙げられます。

ALP(アルカリホスファターゼ) / GGT(γ-グルタミントランスフェラーゼ)

胆汁の流れに関係する酵素で、胆道や肝臓周辺の異常でも上昇します。

ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)

肝細胞に多く含まれる酵素で、肝細胞が傷つくことで、血液中に放出されます。

AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)

肝臓、心臓や骨格の筋肉、赤血球に多く含まれる酵素で、これらが傷害を受けることで、血液中に放出されます。

これらの項目において数値の上昇が見られる場合、肝臓や胆道に負担がかかっている可能性が考えられますが、

肝臓そのものの働き(肝機能)が低下しているかまではわかりません。

TBA(総胆汁酸)

肝機能の状態を把握する項目としては、TBA(総胆汁酸)があります。

総胆汁酸は、消化を助けるために肝臓で作られた後、胆嚢に貯められます。

食べ物が胃から十二指腸に流れ込むと、胆嚢が収縮して、胆嚢内の総胆汁酸は十二指腸へ分泌され、

分泌された総胆汁酸は、腸内で再吸収され、血流に乗って再び肝臓に戻る仕組みになっています。

TBAの上昇が認められる場合には、

●肝臓自体の働きが低下している

●胆汁のうっ滞がある

●肝臓に戻るはずの血管(門脈)に異常がある

といったことが考えられます。

◯患者様情報

犬 マルチーズ

3歳9ヶ月齢

去勢オス

経過

1歳齢の健康診断時から、ALTが基準値をわずかに上回っていました。

食欲にムラが見られながらも、体調は安定しておりましたが、

3歳齢の健康診断時に、ALTが基準値の2倍程度まで上昇が見られたため、精査を実施しました。

検査

血液検査

TBAにおいて、大幅な上昇が見られました。

超音波検査

肝臓実質と門脈に明らかな異常は認められませんでした。

治療

利胆薬の内服を開始しました。

内服を開始してから2週間後に血液検査を実施したところ、TBAにおいては大幅な低下が見られ、

また、ALTにおいても、基準値内まで低下していました。

門脈の異常に関しては、超音波検査で検出することは難しいことも多く、

最終的な診断はCT検査が必要になることもあります。

今回のわんちゃんでは、明らかな血管異常は認められず、内科治療に対して良好な経過が得られたため、

内服を続けながら経過観察をしています。

肝臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれ、病気が進行しても症状が出にくい臓器です。

早期発見・早期治療が大切になりますので、定期的な健康診断や血液検査の実施をおすすめいたします。

ご心配なことがございましたら、お気軽にご相談ください