こんにちは、獣医師の上野です。今回は盲腸に発生した腫瘍の手術の一例をご紹介したいと思います。
動物種:犬
年齢:15歳
体重:5.0kg
主訴:軟便であり、量が少ない。食後に吐きやすい。
身体検査
腹腔内に腫瘤状構造が触知されました。
レントゲン検査
上腹部腹腔内正中に腫瘤状構造が認められました。


実際のレントゲン画像です。腹腔内正中に充実性の腫瘤上構造が確認できます。
超音波検査
肝臓、胃に接触する形で腫瘤状構造を確認しました。

実際の超音波画像です。充実性ではありますが不均一な不透過性を示していました。
血液検査
炎症マーカーであるCRPの著明な上昇が認められました。
この腫瘤状構造が物理的に消化管運動を阻害し、消化器症状を起こしていると考えました。
腫瘤の位置、CRPの上昇から悪性の脾臓腫瘍(血管肉腫など)を疑い、CT検査と手術の提案をさせていただきました。
しかし、血管肉腫であった場合、進行は非常に早いため、飼い主様と相談させていただき、CT検査を省略し、早期の手術を行うこと決断しました。
脾臓摘出手術に則して開腹を行いました。
開腹してすぐに腫瘍が確認されましたが、脾臓は別に確認され、脾臓の構造に異常は認められませんでした。
腫瘍は盲腸の漿膜面から有茎状に発生しており、周囲組織(大網や小腸など)との癒着が起こっていました。

開腹した直後の画像です。手のひらと比較すると大きいのが分かります。
この時点で脾臓摘出術から盲腸腫瘍摘出術へ切り替えました。
腫瘍は上腹部を大きく占有しており、背側での癒着の程度が視認しにくい状況での手術となりました。
腹腔内の背側では大動脈と大静脈が走行しており、主要な血管が豊富であるため、慎重に癒着を剥離していく必要があります。
状況に応じて鉗子での剥離や電気メスでの止血を行いながら確実に周囲組織との癒着を剥離していきました。

剥離後の画像です。盲腸の漿膜から有茎状に発生しているのが分かります。
腫瘍の根がはっきりと確認できたので、盲腸壁ごと楔形に切除することを選択しました。

切除後の画像です。
病理組織検査の結果:消化管間質腫瘍(GIST)、完全切除
GISTは悪性腫瘍ですが切除により完治が期待できます。
再発した際には分子標的薬による内科治療が選択されます。
消化管の手術ですので、術後1週間は流動食による食事管理と抗生剤の投与をしっかりと行います。
再発するケースもあるので、定期的に超音波検査にて経過を確認していきます。
術後の炎症やホルモン性疾患により始めは体調が不安定でしたが、現在は消化器症状もなく、再発も確認されていません。
今回のように腹腔内の腫瘍は想定していた発生源と別のものであることは何度か経験があります。
今回の手術では治療を最優先にしましたが、事前にCT検査を行うことにより発生源の特定は可能です。
当院では11月よりCT検査が実施できるようになりました。
今後上手く活用し、より良い外科治療を提供できるよう努めていきたいと思います。
