2026/10/11

軟部外科

軟部外科シリーズ:肺葉部分切除

こんにちは、獣医師の上野です。今回は猫の肺葉部分切除の一例をご紹介したいと思います。

患者様情報

動物種:猫

年齢:8歳

体重:7.5kg

主訴:咳の症状があり、レントゲン検査(他院)にて肺に影が複数認められた。

検査

聴診

呼吸音に明らかな雑音は聴取されませんでした。

血液検査

明らかな異常は認められませんでした。

レントゲン検査

右肺中葉・後葉、左肺前葉・後葉にそれぞれ腫瘤状構造を認めました。

点線の丸で囲った部位に白い腫瘤状構造が確認されました。

CT検査

レントゲン検査にて確認された部位と一致する充実性腫瘤状構造が気管支と血管を覆う形で確認され、造影剤による増強が認められました。

実際のCTの画像です。この画像では右肺中葉と左肺前葉に腫瘤状構造が認められます。

腫瘍性病変が疑われましたが、病変部位が広範囲及び複数箇所であったため、飼い主様と相談の上、病変を含む肺葉の部分切除を行い、病理組織検査にて診断・治療を行うことの了承をいただきました。

手術

今回は胸壁に近く、アプローチが比較的容易である右肺中葉の部分切除を行いました。

第5肋間に沿うように皮膚切開を行いました。

肋間筋は外肋間筋と内肋間筋の2層があり、それぞれ別々に切開を行います。

内肋間筋の下に胸膜と呼ばれる薄い膜が存在し、そこを切開すると胸腔内に到達します。

注意点

胸膜が切開された瞬間から胸腔内に空気が侵入し始め、肺が膨らめなくなります。

自発呼吸が困難な状態になるので、人工呼吸器や麻酔医による呼吸管理を行いながら手術を行います。

ですので、胸膜切開を行う際には麻酔医との連携が重要になります。

また、肋間筋と胸膜を一緒に切開してしまうケースもありますので、間筋切開を行う際にはまず慎重に鈍性剥離を行い、外肋間筋、内肋間筋、胸膜を丁寧に分けてそれぞれ切開を行います。

胸膜切開を行うと視界に中葉が確認されました。

正常組織と比べると白くボコボコしているのがわかります。

その下に見えるのが心臓です。傷つけないよう注意します。

今回は特殊なステープラー(医療用ホッチキス)を使い、切除を行いました。

上の画像のものがカートリッジで下の画像のものに取り付けて使用します。

こちらのステープラーは組織の切除と縫合を同時に行うことが可能で、切除断端をしっかり止血しつつ縫合を行うことができます。

肺葉の切除後は胸腔内に胸水が貯まりやすくなるのでドレーンを留置します。

ドレーンを留置後に胸壁の縫合を行います。

注意点

縫合が甘くなってしまうと胸腔内に空気が入り込んでしまうため、慎重に行います。

まず支持糸で肋間を寄せて張力を弱めつつ、胸膜をしっかり拾い肋間筋の縫合を行います。

皮下組織も肋間を覆うように縫合を行います。皮膚も常法通りに縫合を行います。

病理組織検査の結果:化膿性肉芽腫性気管支肺炎

腫瘍性病変ではなく、気管支炎の慢性経過の所見が得られました。

術後の注意事項

胸水の貯留や空気の残存、肺葉切除部位からのガス漏れによる気胸のリスクがあるため、酸素室での入院管理とドレーンによる吸引が必要になります。

今回の手術では吸引を手術後1日目は2~3時間おき、二日目以降は4~6時間おきに行い、4日目にドレーンを除去しました。

また、胸腔の手術は強い痛みが伴うため、点滴による持続的な疼痛管理も行いました。

術後の経過

現在は体調は良好で気管支炎に対する治療を行なっています。

咳の症状は改善されましたが、レントゲン検査上で腫瘤上構造は縮小傾向ですがまだ確認されるため、治療継続中です。

今回はCT検査を上手く活用できた症例でした。胸腔内のイメージをしやすく、スムーズに手術を行うことができたと思います。

検査を充分に活用しさまざまな視点から観察を行い、より良い手術を提供できるようこれからも精進していきます。

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