再生医療シリーズ1:犬の慢性腎臓病について

医療技術の進歩に伴って、動物医療についても、再生医療を提供できる時代になってきました。

今回は、その中でも『ヒト臍帯を用いた幹細胞培養上清液の注射』による慢性腎臓病の改善成績について、

ご案内をいたします。

まず、以下の注意事項をお伝えさせてください。

再生医療に関して、動物医療においては、歴史の浅い研究分野になります。

現段階では、その効果を保証することはできませんので、過度な期待には注意が必要と考えています。

あくまで、『こういう治療の選択肢もあるんだ』というご提案の1つとしてお伝えさせてください。

腎臓病の発症原因にもよりますが、

昨年より治療の一環として行なっている当院での成績として、ご案内いたします。

『ヒト臍帯を用いた幹細胞培養上清液の注射』の投与方法と投与間隔について:定期的な投与が必要

1週間に1回、合計4回行います。

その後、2〜4週間に1回を繰り返し行い、投与開始から6ヶ月間を目安に1クールとしてご案内しています。

投与方法については、皮下点滴と一緒に注射します。

慢性腎臓病の子の治療を行っているご家族様にはイメージがつきやすいかもしれない、治療方法の1つです。

当施設で実施した子に伴う有害事象について(副作用について):当院では有害事象なし

2024年1月までで当施設で実施した子については、有害事象は認められていませんが、

アレルギー症状に伴う発熱、嘔吐、下痢などに注意が必要と考えています。

症例情報①:15歳、トイ・プードル、BUN:133.5、CRE:4.25、stage3~4

慢性腎臓病の治療として、皮下点滴を実施していましたが、徐々に悪化していたため、

ヒト臍帯を用いた幹細胞培養上清液の注射を1週間に1回(合計4回)実施し、その後1〜2週間毎に1回実施。

*腎臓病の薬の服用や療法食は使用していない子です。

1ヶ月後の状況:顕著な改善を認める BUN:53.6、CRE:2.38、stage2

4ヶ月後の状況:徐々に進行を認める BUN:108.1、CRE:4.12、stage3

症例情報②:13歳、チワワ、BUN:65.5、CRE:3.0、stage3

慢性腎臓病を発症していることが判明し、

初回よりヒト臍帯を用いた幹細胞培養上清液の注射を皮下点滴と一緒に実施。

1週間に1回(合計8回)、その後2週間毎に1回実施。

*腎臓病の薬の服用や療法食は使用していない子です。

1ヶ月後の状況:緩徐な進行を認める BUN:78.3、CRE:3.27、stage3

2ヶ月後の状況:緩徐な進行を認める BUN:78.6、CRE:3.97、stage3

4ヶ月後の状況:改善を認める BUN:57.4、CRE:2.90、stage2

今回、ご紹介した子は、お薬や療法食を使用していない子をご紹介しましたが、

もちろんお薬の服用や療法食を使用している子もの治療でも実施しています。

症状や数値が改善している子、徐々に進行している子、それぞれの反応がでています。

今回ご案内した子もそうですが、本当に再生医療の効果があったと断定することは慎重な判断を必要とします。

一方で、実際に実施してみて、元気になっていく子や点滴の頻度を減らせる子が増えていることを感じています。

腎臓病の治療方法の1つに、再生医療も検討していく価値はあると思います。

慢性腎臓病でお悩みの皆様にとって、少しでもお役に立てればと思いますので、どうぞ検討してみてください。

再生医療の実施については、ご来院時にご説明しております。

再生医療のご質問については、ホームページの『お問い合わせ』よりメールにてお願いいたします。

日中業務については、診察・手術を行なっておりますので、お電話でのご説明ができない状況です。

ご協力、宜しくお願いいたします。

アリイ動物病院

院長 渡部寛之