循環器シリーズ1:犬の弁膜症(僧帽弁閉鎖不全症)

初めまして、獣医師矢野と申します。

循環器内科を得意としていますので、小動物医療で出会う機会の多い、

犬の弁膜症:僧帽弁閉鎖不全症の症例をご紹介させていただきます。

患者様の情報:犬、ウィペット、9歳、女の子

歯肉からの出血があり、歯石除去等の歯科処置を希望され来院されました。

その際の身体検査時に心雑音が聴取されました。

歯の状況が鎮静下あるいは全身麻酔下での処置が必要だったため、事前検査として採血を行い、NT-proBNP(以下、便宜上 BNP と記載します)を外部委託検査で測定しました。

BNP結果は 1163 pmol/L(基準値:900 pmol/L 以下)で高値を示しました。

BNPについて

BNP の測定は、心臓専用のバイオマーカーで心臓病の評価を行う検査方法です。

例外もありますが、一般的には心臓病で心臓に負荷がかかると高値を示し、負荷が強くなればなるほど数値は高くなります。

本症例における心臓病の重症度:Stage B2

心雑音が聴取され BNP が高値のため、心臓病により心臓に負荷がかかっていることが疑われました。

そのため追加検査として、胸部レントゲン検査と心臓超音波検査を実施しました。

検査結果より、僧帽弁閉鎖不全症と診断がつき、

アメリカ獣医内科学会の分類で、重症度は Stage B2 と判定しました。

犬の弁膜症:僧帽弁閉鎖不全症について

僧帽弁閉鎖不全症は心臓弁膜症の一種で、高齢犬、特に小型犬種に非常に多い病気です。

心臓の左心房と左心室の間には僧帽弁という弁があり、血液をスムーズに送り出すために開いたり閉じたりしています。

その僧帽弁に問題が生じ、きちんと閉じなくなる病気が僧帽弁閉鎖不全症です。

僧帽弁閉鎖不全症では僧帽弁で血液の逆流が起こり、心臓自体にも負荷がかかりますし、全身への血液循環にも問題が生じます。

初期段階では症状はありませんが、進行していくと運動時に疲れやすい、咳が出る、といった症状がみられます。

重症化すると呼吸困難やチアノーゼを起こし、亡くなることもあります。

治療は、心臓の負荷を軽減する内服薬を中心とした内科治療が主体になります。

また、状況により外科治療(手術)での対応が可能な時代になっています。

重症度の分類と内科治療について:Stage A,B,C,Dに分類

Stage A:僧帽弁閉鎖不全症はないものの、好発する犬種に該当する場合

キャバリア・キングチャールズ・スパニエルや小型犬種(チワワ、トイプードルなど)が当てはまります。

治療は推奨されていません。

Stage B:僧帽弁閉鎖不全症があるが、心不全症状がない場合(B1、B2に分類)

病気の進行とともに心臓は拡大しますが、心拡大の有無で、さらに2つのグループに分けられます。

なお、レントゲン検査や超音波検査により心拡大の状態を確認します。

Stage B1:心拡大がない状態です。治療は推奨されていません。

Stage B2:心拡大がある状態です。内科治療が必要です。

サプリメントを含む食餌療法、薬物療法等がありますが、強心薬による薬物療法が最も推奨されています。

Stage C:僧帽弁閉鎖不全症があり、心不全症状もある(あるいは過去にあった)場合

強心薬、利尿薬、血管拡張薬等による積極的な治療が必要です。

急性心不全であれば、入院での集中治療も検討します。

Stage D:僧帽弁閉鎖不全症があり、心不全症状もあり、さらに内科治療の反応が悪い場合

病状に応じた治療の調整が随時必要になります。入院での集中治療も検討します。

※病気の重症度だけではなく、動物の性格や生活環境等も考慮して、検査や治療は柔軟に対応する必要があります。

必ずしも上記通りの対応になる訳ではありませんので、ご注意ください。

本症例の経過について

心臓の負荷を軽減する目的で、血管拡張薬と強心薬の投薬を開始しました。

治療開始から 2 週間経った時点で BNP を再測定したところ、611 pmol/L で数値の改善がみられました。

この結果より、心臓への負荷が軽減されていると判断し、鎮静下での歯科処置を実施しました。

処置中、まったく問題は起こらず、無事に終了することができました。

診断後 4 ヶ月以上経過した現在も、体調に問題はなく、元気に過ごしています。

今後は定期的な心臓検査を通じて病気の進行を確認し、必要に応じて治療の調整を行っていく予定です。

獣医師 矢野