軟部外科シリーズ:犬の子宮蓄膿症

今回は、女の子の生殖器疾患:『子宮疾患の手術』についてお話しします。

当院でよく行うことのある子宮の手術は避妊手術(卵巣・子宮摘出術)です。

避妊手術は予防的な手術ですが、病的な子宮の手術はどんなものがあるでしょうか。

最も多い疾患は子宮蓄膿症(子宮水腫や粘液腫であることも)になり、ついで子宮腫瘍です。

今回は犬の子宮蓄膿症の子についてご紹介します。

患者さま情報

・犬種:チワワ

・年齢:6歳

・体重:3.8kg

・症状:食欲と元気がなく、陰部からおりものが出ている。

子宮蓄膿症について

子宮蓄膿症は子宮内に細菌感染を起こし、膿が貯まってしまう病気です。中〜高齢の子たちの発症が多く、発情によって肥厚した子宮の粘膜に細菌が感染することによって発症します。

治療の時期が遅れてしまう場合は命を落とすこともある怖い病気です。

主症状は『発熱』、『元気消失』、『食欲不振』、『嘔吐』、『下痢』、『陰部からのおりもの(膿、血)』

であり、『飲水量の増加』も特徴的な症状です。

しかし、おりものが出ていない場合(閉塞性の子宮蓄膿症)もあるので注意が必要です。

そこで超音波検査を行います。

正常な子宮は犬種にもよりますが、5~10mmほどの構造をしており、超音波検査では特定し辛いですが、子宮内に液体が貯留することによって確認しやすくなります。子宮に液体が貯留する病気は子宮水腫あるいは粘液種、もしくは子宮蓄膿症です。

さらに血液検査を行うことで子宮蓄膿症の確定を行います。

子宮蓄膿症では強い感染・炎症が起こっていますので、白血球数、CRP(急性炎症マーカー)の増加が認められます。特にCRPの反応は顕著です。

実際の検査結果

超音波検査では膀胱周辺に袋状構造が認められました。

血液検査では白血球数:14900/uL(正常:6000〜15000)でしたが、CRP:33mg/dL(正常:1未満)と顕著な増加が認められました。

症状、画像検査、血液検査の結果より、子宮蓄膿症と診断し、手術を行うことをご了承いただきました。

子宮蓄膿症の手術について

卵巣と子宮を切除する、これ自体は避妊手術と変わりはありませんが、

予防の手術とは異なる注意しなければいけない4点があり、より慎重さが必要になります。

子宮が通常よりも大きくなっているため、切開を大きくする必要がある

子宮に膿が貯留していますので拡張しており、取り巻く血管も怒張しています。

子宮、血管の全体の変化を把握するため、切開を大きくとる必要があります。

子宮が周りの組織と癒着していることがある

子宮の炎症により、周りの組織(多くは大網や腸管)と癒着を起こしていることがあります。

癒着があると子宮を引き出すことが困難になったり、無理に引き剥がすと組織の損傷や出血してしまうリスクが増えてしまうため、丁寧に癒着を剥がしていく必要があります。

子宮と周りの血管が脆くなっている

子宮の拡張と炎症によって子宮の組織が脆く破れやすくなっていますので、貯留している膿がお腹の中に漏れ出てしまったり、出血するリスクがあります。

通常の避妊手術に比べ、子宮や血管の切除の際の結紮(糸で組織を縛ること)をする力加減の調節に気を使わなければなりません。

子宮蓄膿症の影響で、体力が落ちている場合、麻酔が安定しくい

子宮蓄膿症が発覚した時点で体調がかなり悪いことも少なくありません。

それは細菌の毒素(エンドトキシン)による影響で、発症からの時間経過が長いほどより重篤な状態になります。

その場合、腎臓や肝臓、膵臓などの主要臓器へのダメージや貧血、止血機能の異常などが発生するリスクが高く、麻酔が安定しないであろうことを想定しなければなりません。

そういう状況では焦らず体調の安定を最優先し、より安定した状態で手術を行うために内科治療(抗生剤の投与、点滴など)を行い、その後手術に臨みます。

実際の手術所見

ご覧いただいているとおりに子宮はかなり拡張していて、パンパンに張っているように見えます。

正常ですとおおよそストローくらいの太さですが、2〜10倍くらいの太さに拡張します。

大きい子だと私の掌くらいの太さの子もいました。

術後にも注意

無事に手術が終わったとしてもまだ油断はできず、細菌感染による影響が尾を引いてしまうことがあります。

その場合には7日ほどの入院治療を行い、体調を戻していきます。

症状が軽く、比較的元気な子はその日のうちに退院できることもあります。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

避妊手術に関わらず手術で気になること、不安なことなどございましたら気軽にご相談ください。

獣医師 上野