犬、猫の消化器症状(吐き気、下痢、食欲不振)については、その発症年齢で大きく原因が異なってきます。
今回は、『高齢犬における慢性下痢』について、
実際の症例を通して3つのポイントにしぼって解説いたします。
まず、3つのポイントについて、ご紹介します。(10歳以上の高齢犬を対象とした指標になります。)
1、下痢の頻度:2週間以上、1日に1回以上下痢をしていること ⇄ 病気の可能性が高いです。
2、体重の変化:食欲減退に伴い、体重が減ってしまうこと ⇄ 病気の可能性が高いです。
3、飲水量の変化:たくさん水を飲むこと ⇄ 病気の可能性が高いです。
上記の指標は、大切な3つのポイントですが、
高齢犬の場合、病気の可能性が隠れていることが多いため、慎重に検査を進めていくことも大切になります。
それでは、実際の症例をご紹介していきます。
患者様情報:ミニチュア・ダックスフント、16歳齢、男の子
主訴(悩んでいること):1年前より、下痢便が多く、痩せてきたこと。(他院様にて、治療歴あり。)
1、下痢の頻度:毎日、基本的に水分を多く含んだ下痢便
2、体重の変化:食欲はあるが、痩せてきている(6kg→5kgまで痩せる)
3、飲水量の変化:たくさん水を飲む
*許容飲水量:1kgあたり50cc〜70ccまでになります。
上記にご紹介している3つのポイントのうち3つ該当していますので、病気の可能性が高くなります。
ここで考えられる病気の可能性について、3つご紹介します。
1、慢性腸症(IBD):自己免疫であるリンパ球、形質細胞による異常活性に伴う腸炎
2、リンパ腫:血液の癌であるリンパ腫によって、発症するもの
3、内臓疾患:腎臓、肝臓、膵臓、甲状腺など臓器負担によって、発症するもの
なお、今回ご紹介した子は、3つのポイントのうち、3つすべてに該当していました。
大きな病気の可能性に気をつける必要がありますので、
『1、慢性腸炎(IBD)』、『2、リンパ腫』の可能性を疑いました。
実施した検査①:糞便検査
実施した検査②:血液検査
実施した検査③:画像検査(レントゲン、超音波検査)
上記の検査結果より、
肝臓、膵臓の負担が認められましたので、『3、内蔵疾患』の可能性が考えられました。
今回、ご紹介した子は、1年前より下痢に悩んでおり、体重減少も顕著であったため、
『3、内蔵疾患』だけの問題ではないと判断します。
次に行うべき検査は、全身麻酔が必要な内視鏡検査になりますので、
年齢や麻酔リスクを考慮し、肝臓、膵臓の負担を軽減するお薬から治療を開始しました。
治療経過:1週間のお薬での治療で症状の改善は認められませんでした。
16歳という年齢を考慮すると、全身麻酔が必要な検査を無理に行う必要はございません。
日々の診療で、最も悩む部分ですが、治療を行うことが全てではございません。
今回の場合は、以下のポイントを判断の基準にしました。
1、下痢の症状がご本人とってどれだけ負担になっているか。
2、日々、お世話をするご家族様にとって、どれだけのご負担があるか。
3、治せる下痢がどうか。
この判断は、その子その子ですべて変わると思います。
今回は、『2』、『3』がご家族様との話の中で、重要な部分と感じましたので、
内視鏡検査(胃カメラ)を実施することにしました。
追加した検査④:内視鏡検査(全身麻酔)、別日に実施
リンパ腫(低グレード)の治療
基本的には、抗がん剤を代表とするお薬での治療を推奨しています。
*今回は、リンパ腫のご説明は割愛しますが、低グレードリンパ腫は治療を行うことで、
症状を抑えやすい腫瘍です。悪化してしまうと、より悪いリンパ腫に変化してしまうので、
注意が必要になります。
当院では、大きく3つのプランをご案内しています。
1、寛解するための治療プラン
2、症状を緩和するための治療プラン
3、体の負担を抑えつつ、リンパ腫と付き合うプラン
今回、ご紹介した子については、『3、体の負担を抑えつつ、リンパ腫と付き合うプラン』を
ご選択していただき、飲む抗がん剤と注射の抗がん剤の組み合わせで治療を行いました。
治療して1ヶ月で、下痢症状は改善し、今後の経過を見ながら、治療を続けていきます。
高齢犬の慢性下痢については、大きな病気に注意が必要ですが、
診断をしたあとの治療方法が最も大切になります。
少しでも、皆様のお役に立つ情報になれば、幸いです。
慢性下痢でお悩みの際は、どうぞお気軽にご相談ください。
アリイ動物病院 院長