症例報告1:ホルモン反応性尿失禁

こんにちは、獣医師の松本です。

今回は、ホルモン反応性尿失禁についてお話しさせていただきます。

失禁とは

失禁とは、自分の意思とは関係なく、無意識のうちに尿が漏れ出てしまう状態を指します。

尿失禁の原因は大きく2種類に分けることができるとされています。

まず1つの原因は、排出障害(膀胱からの尿の排出が困難になること)です。

尿が出にくくなることで膀胱が過度に膨らみ、その結果、尿が溢れるように出てしまう、といったものです。

もう1つは、蓄尿不全(尿を膀胱内にためていることができないこと)です。

蓄尿不全について

膀胱内に尿をためることができなくなる原因としては

① 炎症

②先天的な尿路の形成異常

③加齢

④尿道括約筋の収縮機能不全

といったものが挙げられます。

ホルモン反応性尿失禁

ここで、本題のホルモン反応性尿失禁についてご説明させていただきます。

ホルモン反応性尿失禁は、蓄尿不全の「④尿道括約筋の収縮機能不全」に該当し、

性ホルモンの変化によって尿道括約筋の緊張が低下することで失禁がおこると考えられていますが、

詳しい病態は解明されていません。

診察で出会うことは少なく、非常に珍しい病気ではありますが、

中〜大型犬のメス、避妊手術後約4年以内に発症する可能性があると言われています。

典型的な症状は、安静時や睡眠時に尿失禁が見られ、

ポタポタと少量の尿が垂れるような失禁から多量の失禁までさまざまです。

血液検査や尿検査、画像検査といった通常実施する検査では異常がないことが多いため、

年齢や性別、症状から仮診断して治療を開始します。

治療は、性ホルモン製剤の経口投与によりホルモンの補充を行います。

患者さま情報

フレンチブルドッグ

避妊メス

4歳齢

主訴:安静時や睡眠時における尿失禁

超音波検査

膀胱内の尿貯留は軽度であったことから、排出障害ではなく、蓄尿不全による尿失禁と考えました。

膀胱粘膜には軽度の肥厚が見られました。

治療

膀胱粘膜の肥厚が見られたため、まずは膀胱炎を疑って治療を行いました。

その後の受診時には膀胱粘膜の肥厚は消失したものの、尿失禁に改善は認められませんでした。

ここで、症状や年齢、性別、膀胱炎治療への反応から、ホルモン反応性尿失禁の可能性を考え、

性ホルモン製剤(エストロゲン製剤)の投与による治療を開始しました。

治療開始後3日ほどで尿失禁の改善が見られ、経過良好です。

ホルモン反応性尿失禁は、治療により症状の改善が十分見込める病気です。

ご心配なことがございましたら、お気軽にご相談ください。