軟部外科シリーズ:精巣腫瘍

こんにちは、獣医師の上野です。動物たちの生活の一助になれるよう今年も頑張っていきたいと思います。

よろしくお願いいたします。

今回は精巣腫瘍の手術のお話をしたいと思います。

患者様情報

動物種:犬

年齢:12才

体重:6kg

主訴:片側の睾丸が内股の皮膚の下にあり、大きくなってきた

精巣腫瘍とは

精巣腫瘍は高齢になるにつれて発症リスクが高くなります。

通常であれば睾丸は成長と共にお腹の中から陰嚢内に下降しますが、下降しきらずお腹の中や内股の皮下(鼠径部)に停滞してしまう停留睾丸も発症リスクを高めます。

主なものに精細胞種、セルトリ細胞腫、ライディッヒ細胞腫があります。

精細胞腫とセルトリ細胞腫はエストロジェン(女性ホルモン)を過剰に分泌し、雌性化現象(対称性脱毛、乳房発達、陰茎萎縮など)や貧血を起こす可能性があります。

時には転移も引き起こし(約10%)、貧血が重度の場合は命に危険が及んでしまいます。

ライディッヒ細胞腫は症状に乏しく転移することはほとんどありません。

治療方法の第一選択は手術です。

転移がない場合は切除により大半は完治が期待できます。

また、若いうちに去勢手術を行うことで予防できます。

転移所見が認められる場合、もしくは転移所見がなくても術後に認められる場合(術後半年以上経って認められることもあり)には抗がん剤治療や放射線治療の検討をします。

今回の患者様は血液検査、超音波検査、レントゲン検査において転移を疑う所見が認められなかったため、飼い主様と相談の上でCT検査を行わずに手術を実施することをご了承いただきました。

手術

通常の去勢手術と同じ手法で行います(ブログ:ウサギの去勢手術を参照)。

正常な睾丸は常法通りに実施しました。

腫瘍化している睾丸は停留睾丸で鼠径部皮下にあるため、腫瘍化睾丸の直上の皮膚を切開し総鞘膜に包まれた精巣と精管、精巣動静脈を確認しました。

周囲組織への固着は認められませんでした。

手術の注意事項

腫瘍細胞が浸潤している可能性を考慮し、以下のことを注意します。

・総鞘膜ごと切除する

・精管、精巣動静脈を可能な限り長く切除する

・転移巣がある場合(多くはリンパ節)は可能な限り切除する

参考画像までにウサギの睾丸写真を挙げました。構造は犬猫と同じです。

停留睾丸である場合、睾丸を十分に牽引できないケースが多いので、今回は精管と精巣動静脈の確保が最低限となっていますが、切除前後での精管と精巣動静脈に形態的な異常は認められませんでした。

切除後の実際の写真です。サイズ差が著しいです。

術後の注意事項

今回の患者様では問題ありませんでしたが、貧血がある場合、手術が成功したとしても貧血が進行してしまうことがあります。

貧血が重度である場合や進行してしまう際には造血剤や輸血の実施を検討します。

また、術後1ヶ月以上経っても症状が落ち着かない場合には転移を警戒します。

術後の経過

基本的には日帰りでの手術が可能ですが、貧血がある場合は少なくとも2~3日の入院管理が必要です。

今回の患者様は特徴的な症状もなく、手術も順調でしたので、その日の午後には帰宅できました。抜糸も問題なく、その後の経過も良好です。