軟部外科シリーズ:猫の皮膚腫瘍切除

こんにちは、獣医師の上野です。今回は皮膚腫瘍切除を行った一例をご紹介したいと思います。

患者様情報

動物種:猫

年齢:4歳

体重:3.3kg

主訴:左胸部の皮膚のしこりが大きくなってきて出血している。

猫の皮膚腫瘍

猫において発生する皮膚腫瘍のおおよそ6割は悪性であるというデータがあり、

猫の皮膚悪性腫瘍には肥満細胞種、扁平上皮癌、繊維肉腫、リンパ腫等があります。

今回の患者様は乳腺に近い部位でもありましたので、乳腺種の可能性もありました。

腫瘍が拡大していること、腫瘍が自壊していることから生活の質に影響を与えているのと悪性の可能性を考慮し、飼い主様と相談の上、切除し、病理組織検査をすることの了承をいただきました。

手術

手術前の写真です。

腫瘍は皮膚表面から発生していました。

形は茸状で大きさは15mm、表面は糜爛を呈していました。

周辺の体表リンパ節(腋窩リンパ節)に腫脹はなく、筋組織への固着はありませんでした。

また、乳腺組織とは離れて発生していたため、乳腺組織ごと切除するのではなく、腫瘍の切除のみを行いました。

手術後の写真です。

とても緊張しやすい患者様でしたので、皮膚縫合は抜糸が必要ないように吸収糸を使用し必要最低限の回数で  行いました。

手術の注意事項

腫瘍が筋肉に固着が発生している場合、筋肉ごとの切除もしくは筋膜(筋肉の表面を覆う膜)ごとの切除が必要になります。(垂直マージン)

また、皮膚の拡大切除も必要になりますので腫瘍辺縁から1~3cm余裕を持って切除します(水平マージン)

今回は筋肉への固着はありませんでしたが、念のため垂直マージンは皮下脂肪まで、水平マージンは1cm確保し切除しました。

病理組織検査結果:扁平上皮癌 完全切除

猫の扁平上皮癌は頭頚部に発生することが多いので今回の発生部位は稀な例となります。

術後の注意事項

扁平上皮癌は局所浸潤性が強い腫瘍であり、再発に注意が必要です。

発生頻度は低いですが転移することもありますので、リンパ節や他臓器の検査も重要です。

術後の経過

悪性腫瘍の場合、傷口の癒合が上手くいかないことがありますが、問題なく治癒していきました。

術後1ヶ月の時点では局所再発もなく、レントゲン検査、超音波検査上も転移所見は認められませんでした。

猫での皮膚腫瘍は犬と比較し発生は多くなく、しこりが見つかった時点で警戒すべきと考えます。

どんなに小さなしこりでも見つけた際にはご来院をご検討ください。