軟部外科シリーズ:結腸縫縮術

こんにちは、獣医師の上野です。今回は結腸の縫縮手術を行なった一例についてお話ししたいと思います。

患者様情報

動物種:犬

年齢:15歳

体重:2.5kg

主訴:いきんでもなかなか便が出ない、出ても少量しかでない。

検査

触診

・腹腔内下腹部正中に4cm大のしこりを触知

レントゲン検査

・触診時と同様の位置の結腸(大腸)が拡大していることを確認

直腸検査

・結腸拡大部に糞塊が貯留していることを確認

・糞塊は結腸に形成された憩室(拡張部)に貯留

・憩室手前の結腸腹側(結腸の外)に腫瘤状構造を触知

以前子宮腫瘍の手術を行なっていましたので、子宮断端における腫瘍の再発が結腸を外側から圧迫、部分的な閉塞を起こし、便通過が不十分となり停留した結果、結腸の憩室が発生したと考えました。

便の通過が滞りなく行えるように憩室ごと結腸を切断・吻合、もしくは憩室部分の縫縮をする手術を提案をさせていただきました。

子宮腫瘍自体は拡大傾向になく、結腸の手術のみで排便の改善は十分見込める状況でしたので、        高齢な子であったため、手術時間を短縮するために結腸の手術のみを行うことのご了承をいただきました。

手術

恥骨(骨盤)前縁領域を目安に約10cmほど腹部切開を行いました。

結腸の憩室部分を確認しましたが、健常な結腸までを引き出すには骨盤を切らなければならない状況でした。

しかしながら憩室と正常な部分の境界ががはっきりしていたため、憩室部分のみを切除し、正常な組織同士を  縫合・縫縮する方法を選択しました。

手術の注意事項

縫縮しすぎてしまうとそれ自体が閉塞の原因になってしまいます。

縫縮部の前後の結腸の太さに合うように切除断端をトリミングし縫合を行います。

結腸は糞便通過時に離開しやすい部分ですので、粘膜の層、漿膜の層をそれぞれ分けて丁寧に縫合します。

この際、縫合間隔が狭すぎると血流を阻害してしまいますし、広すぎると離開のリスクが高くなってしまうので、体の大きさによりますが、おおよそ2mmくらいの間隔で縫合するように意識しています。

術後の注意事項

結腸の手術では術後3~4日後までは理解するリスクが髙いため、最低でも三日間は入院管理を行い、術後24時間は絶食絶水、食事のスタートは流動食からになります。

2週間ほどかけて流動食→ペースト→普通食に戻していきます。

また、術後2週間くらいまでは血便や下痢の症状が出ることが多いので、症状がある際は対症治療を行います。

術後の経過

下痢や血便はなく、術後3ヶ月経過しても排便に問題はありませんでした。

術前の画像です。骨盤頭側の結腸に球状の糞塊が貯留しています。

術後の画像です。結腸の憩室による便の貯留が解消されています。

結腸が拡張してしまう病気は猫で多い病気ですが、犬でも今回のようなケースが起こることがあります。

便の出が悪い時や便が小さい時などは一度ご相談ください。