軟部外科シリーズ:犬の卵巣子宮摘出術の一例

こんにちは、獣医師の上野です。今回は卵巣子宮摘出術を行なった犬の一例をご紹介したいと思います。

患者様情報

動物種:犬 未避妊

年齢:14歳

体重:8.5kg

主訴:1週間前から食欲と元気がない

検査

身体検査

・陰部の腫脹あり

・陰部から粘液状の排出物あり

超音波検査

・子宮の腫脹・液体貯留あり

・卵巣領域での嚢胞状構造あり

血液検査

・白血球とCRP(炎症マーカー)値の上昇

・腎臓・胆嚢・膵臓の値の上昇

疑われる病気

・子宮蓄膿症

・子宮内膜炎

・卵巣・子宮腫瘍

・その他の腫瘍

体調不良の経過が長いこと、炎症の数値が髙いこと、多臓器への影響が出ていることから、

全身性炎症反応症候群(SIRDS)や敗血症のリスクがある状態です。

生命に関わる子宮蓄膿症を第一に疑い、飼い主様の了承をいただき、24時間点滴した後、手術を行いました。

手術

手術の手順は通常の避妊手術と変わりありませんが、健康な状態ではない手術です。

今回の注意点

・卵巣と子宮が腫脹している状態であり、組織破裂のリスクを伴う

・卵巣と子宮に走行している血管の拡張が予想される

・血管や子宮組織が脆くなっている可能性がある

が挙げられました。

このため、腹部切開を広く行い、充分な視界・操作スペースを確保しました。

結紮の際には剪断してしまわないよう慎重に行いました。

また、SIRDSや敗血症のリスクがあるので、全身麻酔によりバイタルサインが安定しないこと(低血圧、徐脈、呼吸数低下)も念頭に入れ、麻酔薬の導入量、麻酔維持の麻酔深度にはいつも以上に注意してモニタリングしました。

今回は麻酔の導入時点で心拍数が下がってしまいましたが、麻酔用量の調整、心拍数の改善薬により、安定して手術を行えることができました。

病理組織検査の結果:子宮蓄膿症、卵巣嚢胞

性ホルモンの異常による子宮蓄膿症という結果でした。

術後の注意事項

子宮蓄膿症手術で原因を取り除いた後でも身体への負担がしばらく続くため、

術後1〜2週間は体調の変化に十分に注意します。

術後の経過

術後は入院・治療を三日間行いました。

炎症の数値と各種内臓の数値も良化傾向であり、食欲も改善がみとめられたため、通院治療に切り替えました。

治療に切り替えても徐々に体調は戻っており、経過は良好ですが引き続き経過を追っています。

避妊手術をしていない高齢犬では子宮蓄膿症を含め、子宮疾患のリスクが非常に高くなります。

体調不良時に実は子宮のトラブルが原因であるケースも珍しくありませんので、

少しでも変だな?と感じた際には迷わずご相談・ご来院ください。