軟部外科シリーズ:歯肉腫瘤の一例

こんにちは、獣医師の上野です。今回は歯肉に発生した腫瘤の一例をご紹介したいと思います。

患者様情報

動物種:犬

年齢:11歳

体重:6kg

主訴:左上臼歯の歯肉に腫瘤ができている。一般状態は良好。

検査

身体検査

・歯石の付着

・歯肉の発赤、出血

・左側上顎第四前臼歯歯肉に腫瘤形成

疑われる疾患

・歯肉炎による炎症性変化(過形成やエプリス)

・悪性腫瘍(黒色腫、扁平上皮癌)

歯肉炎を疑い、抗生剤による治療から開始しました。

症状の改善は認められましたが、腫瘤の大きさに変化は認められませんでした。

飼い主様と相談の上、口腔内ケアのために麻酔下での歯石除去と、診断・治療のための腫瘤切除を行うことを

了承いただきました。

手術

歯石除去を行なった後、歯肉腫瘤の切除を行いました。

今回の注意点

口腔内に発生した悪性腫瘍は再発率が極めて高く、取り残しがないよう広く深く切除する必要があります。

場合により顎骨ごと切除することもあります。

今回の所見では腫瘤は茸状に発生しており、発生箇所がはっきり確認できました。

悪性を強く疑う所見(腫瘤の脆弱、自壊、出血、疼痛)もありませんでしたので、

手術後の侵襲が強くなる広範囲切除ではなく局所的切除を選択肢し、

病理組織検査の結果によって拡大切除の是非を判断することにしました。

手術前の写真です。歯肉が腫瘤状に腫れています。

手術後の写真です。丸で囲っている部分から腫瘤が茸状に発生していました。

病理組織検査の結果:慢性歯肉炎、歯肉過形成

術後の注意事項

切除後は化膿や炎症が起こりやすい状態ですので、抗生剤と抗炎症剤を投与していきます。

術後の経過

現在も経過観察中ですが再発はなく、腫瘍性病変ではないとの結果が得られましたので、

正常な口腔内環境を維持することが出来れば良好な経過が期待できます。

口腔内の変化で思わぬ病気が発見できることもあります。

日々の口腔ケアで気になることがあった際にはぜひご相談ください。