軟部外科シリーズ:抜歯窩縫合

こんにちは、獣医師の上野です。今回は犬歯が抜けて出来た穴(抜歯窩)の縫合をした一例をご紹介します。

患者様情報

動物種:猫

年齢:10歳

体重:6.5kg

主訴:右上の犬歯がズレて曲がっていて、他院にて抜歯後縫合した。歯根が残っていないかの確認。

検査

身体検査

・右上顎犬歯なし

・同部位の抜歯窩は縫合により閉鎖

レントゲン検査

・歯根の遺残なし

実際のレントゲン画像です。抜歯窩に歯根が残存していないのが確認できます。

経過は良好でしたが、1週間後の再診時、縫合部は開いていて抜歯窩が再発していました。

抜歯窩から鼻腔への貫通が確認できましたので、飼い主様の希望もあり、抜歯窩縫合を実施しました。

手術

術式は非常にシンプルで、歯肉同士を縫合し、穴を閉じます。

しかし、ただ寄せて縫合するだけではすぐに離開してしまいます。

その理由として

抜歯窩は縫合してもその下が空洞なので治癒に必要な組織が少なく、治癒しづらい

縫合部に強い張力がかかり、少しの圧迫で離開してしまう

以上があげられます。

今回のケースでは一度縫合した後に離開したこともあり、以下の処置を加えました。

・歯肉を上顎骨から剥離する

・犬歯部歯肉下の上顎骨を削る

この二つの処置を行うことにより

縫合部へかかる張力を弱めることができ、容易に離開しないようにしました。

手術前の写真です。抜歯窩が確認されます。

手術後の写真です。歯肉を剥離後、上顎骨を削り、張力を弱めて縫合することができました。

しかしながら当院での手術から2週間後、再度抜歯窩が確認されました。

術後2週間の写真です。

手術前と比べて抜歯窩の縮小が認められましたが、完全には塞がっていなかったため、飼い主様と相談の上、再縫合の承諾をいただきました。

二度目手術の際、歯肉の剥離を上唇粘膜まで行い、縫合部にかかる張力をさらに弱め、十分な組織を寄せることにより血流の確保を強化しました。

二度目の手術の写真です。上唇粘膜まで剥離し、引き寄せる形で縫合しました。

術後の注意事項

術後は抗生剤の投与をしっかり行い、固い食事は縫合部が安定する3~7日は避けます。

術後の経過

当院での二度目の手術の後、経過は良好で抜歯窩が再発することはありませんでした。

犬歯が抜けてしまう原因は歯周病や外傷によることが多いです。

抜歯窩は自然に埋まって治癒するケースもありますが、そのまま残って鼻腔への貫通が起こってしまうと慢性的な鼻炎に発展する可能性があります。

犬歯がぐらついていたり抜けてしまうようなことがある際にはご相談ください。