軟部外科シリーズ:肛門嚢切除

こんにちは、獣医師の上野です。今回は猫の肛門嚢切除のご紹介したいと思います。

患者様情報

動物種:猫

年齢:10歳

体重:5.0kg

主訴:右側の肛門嚢破裂を繰り返している

肛門嚢破裂とは

肛門嚢とは肛門の両脇(4時と8時の方向)にあり、内肛門括約筋と外肛門括約筋の間に存在する袋状の構造です。

アポクリン腺と脂腺(肛門腺)の分泌物の貯蔵庫として働き、通常排便と共に排出されます。

この排出が正常に行われないと肛門嚢に細菌が入り込み炎症を起こしたり、

分泌物が固くなるなどで『肛門嚢破裂』を引き起こします。

破裂した場合、皮下に分泌物が漏れ出すので、化膿し、瘻管を形成し排膿します。

抗生物質や抗炎症薬によって治療を行いますが、肛門嚢破裂を繰り返す場合には肛門嚢切除を選択します。

検査

視診

来院時には肛門周囲の皮膚は正常でした。

触診

肛門腺の貯留が認められました。

圧迫により肛門腺の排出が確認されましたが、右側の肛門腺は硬く、ペースト状を呈していました。

肛門嚢破裂を繰り返していましたので、飼い主様と相談し、肛門嚢切除を行うことの了承を得ました。

今後の予防のため、左右の肛門嚢切除を実施しました。

手術

手術を行う前に肛門嚢の中を空にします。

通常の肛門腺絞りを行なった後、肛門嚢の開口部よりカテーテルにて中の洗浄・消毒を行います。

肛門に消毒液に浸したガーゼを詰めたあと、肛門周囲の皮膚消毒を行います。

再度カテーテルを開口部より肛門嚢に挿入し、肛門嚢の位置や形を確認します。

肛門嚢の縁を目安に肛門の形に沿うイメージで皮膚切開を行ないます。

筋繊維に沿って外肛門括約筋を切開し肛門嚢を露出したのち、筋肉からの剥離を行います。

注意点

肛門括約筋の神経と血管の損傷をしないよう細心の注意を払い剥離と止血を行なっていきます。

損傷と修復の繰り返しにより肛門嚢が破けやすいケースもあります。

肛門嚢の組織の取り残しがあると再度炎症と化膿を起こす可能性がありますので、

もし破けてしまっても開口部までの導管までをガイドとし、取り残さないよう丁寧に取り除いていきます。

開口部からピンセットの先端を肛門嚢内に刺入している画像です。

右側の肛門嚢は破裂を繰り返していたので筋肉との癒着が激しく、肛門嚢自体も脆かったため、

途中で破けてしまいました。

導管まで剥離が終わったらなるべく開口部に近い部位で導管を結紮し切除します。

切開した筋肉を吸収糸で縫合し、常法通り閉創します。

皮膚縫合後の画像です。

術後の注意事項

消化管の手術ですので、術後1週間は流動食による食事管理と抗生剤の投与をしっかりと行います。

肛門に近い位置での傷ですので、抗生剤を1~2週間投与します。

また、舐めないようにエリザベスカラーの装着も行います。

肛門の炎症で排便が困難になる場合は便軟化剤を併用することもあります。

術後の経過

傷の化膿や排便困難も問題なく、無事に抜糸を行えました。

肛門嚢破裂は犬で多いですが、猫でも意外と遭遇します。

犬猫共通して予防策は定期的な肛門腺しぼりと食物繊維の摂取です。

犬も猫も定期的なお手入れが重要となります。

当院では肛門腺しぼりのお手伝いもさせていただいています。

肛門腺の質や量で肛門嚢破裂のリスクがある程度測ることは可能ですので、

ご希望の際は気軽にお声がけください。